簿記3級コース

## 当座預金とは
会社は、個人と同じように、**普通預金**や**定期預金**の口座をもつことができます。

普通預金は、いつでも預け入れや引き出しができる預金です。

一方、定期預金は、原則として満期にしか引き出しができない預金です。引き出しの制限がありますが、普通預金よりも金利が高く設定されています。

これらとは別に、会社は決済用として**当座預金**の口座を開設します。

当座預金には、普通預金などとは異なり、利息がつきませんが、「**小切手**」や「**手形**」による決済が可能となるのが特徴です。小切手については、次のLessonで学び、手形についてはChapter4で詳しく学びます。
## 会計処理
当座預金口座への入金と当座預金口座からの支払いの2パターンです。例題とともに見ていきましょう。
### 当座預金口座への入金
当座預金は普通預金や定期預金と同じように、それ自体に金銭的な価値があります。

よって、当座預金口座に入金した場合は、「**当座預金**」勘定を用いて**資産の増加**として処理します。
[box 例題1]
デビクレ株式会社は、現金10,000円を当座預金口座に預け入れた。
[/box]
「現金」という資産が減少しますが、「当座預金」という新たな資産が増加します。

よって、仕訳は以下のようになります。
[journal]
当座預金 10,000 / 現金 10,000
[/journal]
### 当座預金口座からの支払い
当座預金口座から出金したら「**当座預金**」勘定を用いて**資産の減少**として処理します。
[box 例題2]
デビクレ株式会社は、当座預金口座から水道光熱費5,000円を支払った。
[/box]
「水道光熱費」は費用の増加として借方に、資産の減少として「当座預金」は貸方に来ます。

よって、仕訳は以下のようになります。
[journal]
水道光熱費 5,000 / 当座預金 5,000
[/journal]

現金預金

当座預金

## 小切手とは
会社どうしの取引では、何十万円から何千万円といった大きな金額の取引になることが多々あります。このように、大きな金額を支払う場合には、現金を用いるのは非現実的です。
そこで使われるのが**小切手**です。

中央の金額欄に支払金額を記入することで、大きな金額でも証券１枚で取引することが可能となります。
前回のLessonでも触れたように、会社は当座預金口座を開設すると小切手による決済ができるようになります。

それでは小切手の決済の流れを見ていきましょう。例えばA社がB社に代金を支払うシチュエーションです。

A社は、代金を現金で支払う代わりに、受取人であるB社に対し、小切手を作成して渡します。これを「**小切手の振出し**」といい、振り出した会社のことを「**振出人**」といいます。

小切手の受取人は受け取った小切手を銀行に提示することで、すぐに現金に換えてもらうことができます。

![小切手決済の流れの図](https://storage.googleapis.com/debicre/media/check_clearing.png)

このように、小切手を使った決済では、振出人の**当座預金**から代金が差し引かれ、受取人はその分を**現金**で受け取るというのが重要なポイントです。
## 会計処理
会計処理は、小切手を支払った場合と小切手を受け取った場合の2パターンです。それぞれ例題とともに見ていきましょう。
### 小切手を振り出した場合
小切手を振り出した場合は、先ほどのA社に該当し、代金は当座預金から支払われます。

よって、「**当座預金**」勘定を用いて**資産の減少**として処理します。
[box 例題1]
デビクレ株式会社は、商品100,000円を仕入れ、代金は小切手を振り出して支払った。
[/box]
商品を仕入れているため、費用の増加として「仕入」勘定は借方に来ます。

小切手の振り出しにより当座預金が減少するため、資産の減少として「当座預金」勘定は貸方に来ます。

よって、仕訳は以下のようになります。
[journal]
仕入 100,000 / 当座預金 100,000
[/journal]
### 小切手を受け取った場合
小切手を受け取った場合、先ほどのB社に該当し、小切手を換金することで手元の現金が増加します。

よって、「**現金**」勘定を用いて**資産の増加**として処理します。
[box 例題2]
デビクレ株式会社は、得意先に商品を100,000円を売り上げ、代金は得意先振り出しの小切手で受け取った。
[/box]
商品を売り上げているため、収益の増加として「売上」勘定は貸方に来ます。

また、小切手の受取りにより現金が増加するため、資産の増加として「現金」勘定は借方に来ます。

よって、仕訳は以下のようになります。
[journal]
現金 100,000 / 売上 100,000
[/journal]

小切手

## 現金とは
さて、「現金」という言葉を聞いたら、紙幣や通貨などが浮かぶと思います。しかし、簿記の世界における現金はこれだけではありません。

紙幣や通貨以外にも、銀行などの金融機関に行っていつでも現金と交換出来る「**通貨代用証券**」も含まれます。
## 会計処理
通貨代用証券を受け取った場合は、すぐに現金に換えることができるので、「**現金**」勘定を用いて**資産の増加**として処理します。

以下に、「通貨代用証券」に分類されるものを3つ記載しておりますので、例題とともに見ていきましょう。
### 他人振出小切手
**他人振出小切手**とは、その名の通り、他の会社が振り出した小切手のことです。

先ほどの「小切手」のLessonでも学んだように、小切手の受取人は、この他人振出小切手を銀行に持っていくことで、すぐに現金を受け取ることができます。
[box 例題1]
デビクレ株式会社は、得意先に商品を100,000円で販売し、代金は得意先振り出しの小切手で受け取った。
[/box]
まず、商品を売り上げているので、収益の増加として「売上」勘定は貸方に来ます。

また、他人振出小切手を受け取っているので、資産の増加として「現金」勘定は借方に来ます。

よって、仕訳は以下のようになります。
[journal]
現金 100,000 / 売上 100,000
[/journal]
### 送金小切手
**送金小切手**とは、遠くにいる受取人にお金を送りたいときに、現金に代わって送付する小切手です。

他人振出小切手とは異なり、当座預金口座を開設しなくても使え、振出人は銀行になります。受取人は、送金小切手を銀行に持っていくことで、すぐに現金に交換してもらうことができます。
[box 例題2]
デビクレ株式会社は、得意先に商品5,000円を売り上げ、代金は送金小切手で受け取った。
[/box]
商品を売り上げているので、収益の増加として「売上」勘定は貸方に来ます。

送金小切手を受け取っているので、資産の増加として「現金」勘定は借方に来ます。

よって、仕訳は以下のようになります。
[journal]
現金 5,000 / 売上 5,000
[/journal]
### 郵便為替証書
**郵便為替証書**とは、送金小切手の郵便局バージョンです。

送る側は、郵便局やゆうちょ銀行で郵便為替証書を購入し、受取人へ送ります。受け取る側は、郵便為替証書を郵便局やゆうちょ銀行へ持っていくと、すぐに現金を受け取ることができます。
[box 例題3]
デビクレ株式会社は、得意先に商品を10,000円で販売し、代金は郵便為替証書で受け取った。
[/box]
商品を売り上げているので、収益の増加として「売上」勘定は貸方に来ます。

郵便為替証書は通貨代用証券であるため、受け取った場合は「現金」勘定の増加として処理します。

よって、仕訳は以下のようになります。
[journal]
現金 10,000 / 売上 10,000
[/journal]

現金の範囲

## 現金過不足とは
仕訳のミスや記帳漏れなどによって、現金の帳簿残高と実際有高が一致しない場合があります。

「**現金過不足**」とは、現金の帳簿残高と実際残高が一致しない場合の両者の差額のことです。

![現金過不足の図](https://storage.googleapis.com/debicre/media/cash_over_and_short.png)
## 会計処理
それでは、現金過不足の会計処理(2パターン)を例題とともに見てみましょう。本当はもう1パターンありますが、決算整理仕訳に該当するため、Chapter8で扱います。
### 現金過不足が判明したとき
現金過不足が生じた場合、必ず**帳簿上の金額を実際の金額に調整**します。

つまり、実際有高＞帳簿残高の場合は、「**現金**」勘定を使って**資産の増加**とし、実際有高＜帳簿残高の場合は、「**現金**」勘定を使って**資産の減少**とします。そして、その相手勘定科目を「**現金過不足**」勘定とします。

この「現金過不足」勘定はズレの原因が判明するまで一時的に計上しておく勘定(**仮勘定**)ですので、簿記の5要素のどれにも該当しません。よって、仕訳をするときは、「現金」勘定の相手勘定として計上するというのがポイントです。
[box 例題1]
金庫の現金を調査したところ、実際有高が100,000円であるのに対し、帳簿残高は101,000円であった。
[/box]
先ほども言いましたが、必ず帳簿上の金額を実際の金額に調整します。今回、実際有高<帳簿残高であるため、帳簿残高を減らして実際有高の金額に合わせます。

したがって、「現金」勘定は資産の減少として貸方となり、相手勘定科目は「現金過不足」となります。

よって、仕訳は以下のようになります。
[journal]
現金過不足 1,000 / 現金 1,000
[/journal]
また、今回の例1で実際有高が101,000円、帳簿残高が100,000円だった場合の仕訳は以下のようになります。
[journal]
現金 1,000 / 現金過不足 1,000
[/journal]
### 過不足の原因が判明したとき
現金過不足の原因が判明したら、仮勘定である「現金過不足」勘定を**ゼロ**にし、確定した科目に振り替えます。
[box 例題2]
例題1の現金過不足1,000円(借方残高)の原因を調査したところ、全て水道光熱費の記帳漏れであることが判明した。
[/box]
借方残高である「現金過不足」勘定を貸方に持っていくことでゼロにします。

また、水道光熱費の記帳漏れであることが分かったので、費用の増加として「水道光熱費」勘定は借方に来ます。

よって、仕訳は以下のようになります。
[journal]
水道光熱費 1,000 / 現金過不足 1,000
[/journal]

現金過不足

## 当座借越とは
**当座借越**とは、マイナスの当座預金のことをいいます。

日々の取引において、出金が連続した場合、当座預金口座の残高がなくなってしまい、次の決済ができなくなる可能性があります。そこで、会社は銀行と**当座借越契約**を結ぶことがあります。

![当座借越](https://storage.googleapis.com/debicre/media/overdraft.png)

こうすることで、銀行が不足分を代わりに立て替えてくれるので、代金の決済ができるようになります。
## 会計処理
以下の2パターンの処理について例題とともに見ていきましょう。本当はもう1パターンありますが、それは決算整理仕訳なのでChapter9で扱います。
### 当座預金残高を超えた引き出しを行った場合
当座預金残高を超える金額を引き出した場合は、**当座預金の減少**として処理します。
[box 例題1]
デビクレ株式会社は、商品200,000円を仕入れ、代金は小切手を振り出して支払った。なお、当座預金の残高は150,000円であり、取引銀行と限度額300,000円の当座借越契約を結んでいる。
[/box]
残高は150,000円しかありませんが、銀行と限度額300,000円の当座借越契約を結んでいるので、200,000円を引き出すことができます。

つまり、「商品200,000円を仕入れ、小切手を振り出して支払った」という取引と同じです。

したがって、費用の発生として「仕入」勘定は借方となり、資産の減少として「当座預金」勘定は貸方となります。

よって、仕訳は以下のようになります。
[journal]
仕入 200,000 / 当座預金 200,000
[/journal]
### 当座借越を解消した場合
当座借越を解消した場合は、**当座預金の増加**として処理します。
[box 例題2]
デビクレ株式会社は、当座借越100,000円を解消するために、現金150,000円を当座預金に預け入れた。
[/box]
「現金150,000円を当座預金に預け入れた」という取引と同じです。

資産の増加として「当座預金」勘定は借方となり、資産の減少として「現金」勘定は貸方となります。

よって、仕訳は以下のようになります。
[journal]
当座預金 150,000 / 現金 150,000
[/journal]

当座借越

## 小口現金制度とは
会社では旅費交通費や消耗品費など少額の支出取引が日々多く発生します。
経理部からすると、取引の都度、精算して仕訳をするのは流石に骨が折れます。そこで、この手間を省くために「**小口現金制度**」を採用することがあります。
小口現金制度を採用した場合の1週間の流れは、以下のようになります。

![小口現金の図](https://storage.googleapis.com/debicre/media/petty_cash.png)

① あらかじめ小口現金係に小口現金を前渡しします。

② 小口現金係は先ほど貰った小口現金を文房具代や電車代などの日々の支払いに使います。この1週間分の支払いについて会計係に報告をします。

③ 週終わりになったら、支払額と同額の小口現金を小口現金係に渡して補充します。

こうすることで、週初めには必ず一定額が担当者の手元にあることになります。この仕組みを「**定額資金前渡制度**」といいます。
## 会計処理
小口現金制度の会計処理は以下の3パターンです。例題とともに見ていきましょう。
### 小口現金制度を採用した場合
担当者に渡した現金を小口現金というため、「**小口現金**」勘定を用いて**資産の増加**として処理します。
うっかり「現金」勘定で処理しないように気をつけましょう。
[box 例題1]
デビクレ株式会社は、定額資金前渡制度による小口現金制度を採用するため、経理係は小口現金係に小切手10,000円を振り出して、小口現金を渡した。
[/box]
小切手を振り出して、小口現金を前渡ししています。したがって、資産の増加として「小口現金」勘定は借方に、資産の減少として「当座預金」は貸方となります。

よって、仕訳は以下のようになります。
[journal]
小口現金 10,000 / 当座預金 10,000
[/journal]
### 支払の報告を受けた場合
支払の報告を受けたときには、「**小口現金**」勘定を用いて**資産の減少**として処理し、適切な勘定科目に振り替えます。
[box 例題2]
 小口現金係から旅費交通費5,000円の支払いを行ったと報告があった。
[/box]
旅費交通費の支払いの報告を受けたので、「小口現金」から「旅費交通費」へ振り替えます。

したがって、費用の発生として「旅費交通費」勘定は借方に、資産の減少として「小口現金」勘定は貸方となります。

よって、仕訳は以下のようになります。
[journal]
旅費交通費 5,000 / 小口現金 5,000
[/journal]
### 小口現金の補給を行った場合　
小口現金を補給した場合は、「**小口現金**」勘定を用いて**資産の増加**として処理します。
[box 例題3]
上記の報告を受けたので、支払額5,000円と同額の小切手を振り出して補給した。
[/box]
小切手を振り出して、支払額と同額を補給しています。
したがって、資産の増加として「小口現金」勘定は借方に、資産の減少として「当座預金」は貸方となります。

よって、仕訳は以下のようになります。
[journal]
小口現金 5,000 / 当座預金 5,000
[/journal]

Chapter3 現金預金