商業簿記と工業簿記の違い|簿記2級で加わる工業簿記を身近な例で比較

2026/10/6
目次

商業簿記と工業簿記の違いについて解説します。2級の勉強を始めて工業簿記のページを開いたとたん、「仕掛品」「製造間接費」「配賦」と見慣れない言葉が並んでいて、手が止まってしまう人は少なくありません。3級で仕訳に慣れてきたところだけに、急に別の科目が始まったように感じるのも無理はないと思います。

ただ、工業簿記も借方・貸方の考え方や勘定の使い方は3級と同じです。違うのは「何を記録するか」と「原価をどうやって知るか」の2点で、ここがつかめると工業簿記の言葉もぐっと読みやすくなります。

記録する取引が「外」か「内」か

日本商工会議所は、2級の試験科目を商業簿記と工業簿記(原価計算を含む)としています。商業簿記は購買活動や販売活動など企業外部との取引を記録・計算する技能、工業簿記は企業内部での部門別や製品別の材料・燃料・人力などの資源の投入を記録・計算する技能とされています。

少しかみくだくと、商業簿記は「よそとのやりとり」を記録する簿記です。商品を仕入れる、売る、代金を払う、受け取るといった取引には、どれも取引先やお客さんという相手がいます。お小遣い帳に、もらったお金と使ったお金を書いていく感覚に近く、相手とのお金やモノのやりとりが記録の中心です。

工業簿記は、会社の「中」で起きていることを記録します。仕入れた材料を工場で使う、従業員が製品を作る、作りかけの製品が完成するといった動きには、取引の相手がいません。会社の中で、モノと手間が製品に変わっていく流れを追いかけるのが工業簿記です。

ちなみに、3級の試験科目は商業簿記だけです。3級で学んだ仕訳や決算は、すべて商業簿記の内容だったことになります。2級では商業簿記の範囲が広がり、さらに工業簿記という新しい科目が加わります。

仕入れて売るか、作って売るか

身近なお店で考えてみます。

たとえば、コンビニでアルバイトをしたことがある人なら、ペットボトルのジュースやお菓子がトラックで届き、それを棚に並べて売る流れを見たことがあると思います。お店はジュースを作っていません。1本80円で仕入れたジュースを150円で売れば、1本あたりのもうけは70円です。仕入れ値は届いた伝票や請求書に書いてあるので、原価で迷うことはあまりありません。こうした「仕入れて売る」商売の記録が、商業簿記の得意な分野です。

一方、駅前の小さなクレープ屋さんを思い浮かべてみてください。小麦粉や卵、生クリーム、いちごを仕入れて、店員さんが1枚ずつ焼いて売ります。ここで「クレープ1枚の原価はいくら?」と聞かれると、少し困ります。材料代だけでなく、焼いている店員さんのお給料や、鉄板を温めるガス代もかかっているからです。どこにも「クレープ1枚200円」という請求書はありません。自分たちで計算するしかないのです。

この「作ったものの原価を自分で計算する」ところが、工業簿記のいちばんの特徴です。2級の工業簿記で扱うのは工場で製品を作る会社ですが、考え方はこのクレープ屋さんと同じです。

仕入れた商品をそのまま売る商業簿記の流れと、材料・人の手・設備から製品を作って売る工業簿記の流れを並べて比べた図

仕訳で比べてみる

3級で学んだ商業簿記の仕訳と並べると、違いが見えやすくなります。ここでは流れをつかむために、細かな分け方は省いた簡単な例にしています。

コンビニがジュース1,000本を1本80円で仕入れ、代金を掛けにしたときの仕訳は、3級でおなじみの形です。

借方科目 金額 貸方科目 金額
仕入 80,000 買掛金 80,000

クレープ屋さんを工場に見立てて、仕入れておいた材料のうち90,000円分を、クレープを焼くために使ったとします。工業簿記では、使った材料を「作りかけの製品」を表す仕掛品という勘定に移します。

借方科目 金額 貸方科目 金額
仕掛品 90,000 材料 90,000

ここで多くの人が戸惑うのが、「お金は1円も動いていないのに、なぜ仕訳を書くのか」という点です。商業簿記では、仕訳は誰かとの取引があったときに書くものでした。工業簿記では、材料が棚から作業台へ移った、作りかけのものが完成した、という会社の中の移動も仕訳にします。材料の価値が、作りかけの製品の価値に姿を変えたと考えるとわかりやすいかもしれません。

同じように、店員さんのお給料やガス代のうち、クレープを作るのにかかった分も仕掛品に集めていきます。材料費90,000円、お給料120,000円、ガス代や電気代30,000円で合計240,000円がかかったとします。焼いたクレープがすべて完成したら、集めた240,000円を仕掛品から製品という勘定へ移します。

借方科目 金額 貸方科目 金額
製品 240,000 仕掛品 240,000

実際の2級では、材料費や経費を「どの製品に使ったかがはっきりわかるもの」と「工場全体で使ったもの」に分けて考えます。工場全体で使った分は、いったん製造間接費という勘定に集めてから、製品ごとに割り振って仕掛品へ移します。材料費の分け方は、次の記事で解説しています。

1つあたりの原価を出すのが工業簿記の目的

さきほどのクレープ屋さんで、1か月にかかった240,000円で1,200枚のクレープを焼いたとすると、1枚あたりの原価は200円です。500円で売っているなら、1枚につき300円がもうけの元になります。

この200円を出すために、工業簿記ではかかったお金を材料費・労務費・経費の3つに分けて集め、作りかけの分と完成した分に振り分けていきます。材料費は材料にかかったお金、労務費は人の働きにかかったお金、経費はそれ以外です。たとえばクレープ屋さんなら、小麦粉やいちごが材料費、店員さんのお給料が労務費、ガス代や電気代が経費にあたります。

材料費・労務費・経費の合計を完成した個数で割り、1つあたりの原価を求める流れを示した図

1つあたりの原価がわかると、値段をいくらにすればいいか、どこを節約すればもうけが増えるか、といった判断ができるようになります。公式の案内でも、工業簿記は「経営管理に必須の知識」と説明されています。

ちなみに、2級の試験科目に「原価計算を含む」とあるので、この1つあたりの原価を計算する手続きも、2級の工業簿記で学ぶ範囲に入ります。1級になると、工業簿記と原価計算はそれぞれ別の科目になります。

2級の工業簿記で学ぶこと

2級の工業簿記は、材料費・労務費・経費の計算から始まり、製造間接費を製品に割り振る方法、注文を受けて1つずつ作る場合の個別原価計算、同じものをたくさん作る場合の総合原価計算へと進みます。そのあとに、あらかじめ決めた目標の原価と実際の原価を比べる標準原価計算や、売上と費用の関係から利益の出方を考える損益分岐点の分析、直接原価計算が続きます。

聞き慣れない名前が多く見えますが、どれも「作ったものの原価をどう計算するか」「その数字を利益の計算にどうつなげるか」という同じ問いの延長にあります。最初に材料から製品までの流れをつかんでおくと、それぞれの論点がどこに当てはまるのか迷いにくくなります。

最終的に、売れた製品の原価は損益計算書の売上原価になります。ここで商業簿記と工業簿記がつながります。もう少し先の話になりますが、原価の計算のしかたには全部原価計算と直接原価計算があり、同じ売上でも営業利益の金額が変わることがあります。その理由は、次の記事で解説しています。

商業簿記と工業簿記を表で比べる

ここまでの違いを、表で並べておきます。

比べるところ 商業簿記 工業簿記
記録する取引 仕入・販売など、会社の外とのやりとり 材料や人の手間が製品になるまでの、会社の中の動き
原価のわかり方 仕入れ値が伝票や請求書でわかる 材料費・労務費・経費を集めて自分で計算する
3級との関係 3級の内容が土台になる 3級にはなく、2級で初めて学ぶ
よく出てくる勘定 仕入、売上、売掛金、買掛金など 材料、賃金、仕掛品、製造間接費、製品など
2027年度の出題区分表 紙の手形・小切手の廃止などにともなう改定がある 2022年度〜2026年度の区分表から変更なし

最後の行は、受験する時期によって気にしておきたいところです。2026年度の試験(2027年3月31日まで)には2022年度版の出題区分表が使われ、2027年度の試験からは新しい区分表が使われます。ただ、工業簿記・原価計算の区分表は2027年度も変わりません。受験する年度の範囲は、簿記2級の出題範囲と問題構成で確認できます。

工業簿記でつまずきやすいところ

工業簿記でつまずきやすいのは、計算そのものより、言葉と流れのところかもしれません。

ひとつは、さきほどの「お金が動かない仕訳」です。商業簿記の感覚のまま読むと、材料を使っただけで仕訳を書く理由がわからず、手が止まります。工業簿記の仕訳は会社の中のモノの移動を追いかけている、と意識するだけで、ずいぶん読みやすくなります。

もうひとつは、勘定がいくつもつながっていく流れです。材料から仕掛品へ、仕掛品から製品へ、製品から売上原価へと、金額が順に移っていきます。途中に製造間接費が入ったり、作りかけのまま月末を迎える分が出たりと、追いかける矢印が増えていきます。1つずつの仕訳を覚えるより、紙に勘定の箱を並べて、金額がどの箱からどの箱へ移るのかを自分で書いてみると、全体の流れが見えてきます。

商業簿記の側にも、つまずきやすいところはあります。2級の商業簿記は、3級の内容に有価証券や税効果会計、連結会計などが加わり、範囲がかなり広くなります。一つひとつの論点は独立していることが多く、工業簿記のように一本の流れでつながっているわけではありません。そのぶん、論点ごとにこつこつ積み上げる学び方が向いています。

どちらから勉強するか

商業簿記と工業簿記のどちらから始めるかに、決まった正解はありません。毎週どちらも少しずつ進める方法もあれば、工業簿記を先にひと通り学んでから商業簿記に入る方法もあります。週ごとの進め方の例は、簿記2級の勉強スケジュールで紹介しています。

3級を受けずに2級から始める場合は、工業簿記だけでなく、商業簿記の土台になる3級の範囲もあわせて学ぶことになります。3級から進めるか、いきなり2級から始めるかの決め方は、簿記はいきなり2級からでいい?で解説しています。

デビクレの簿記2級では、2026年度試験向けの商業簿記と工業簿記のレッスンと確認問題を順次公開しています。今は試験範囲の一部を扱っています。

まとめ

商業簿記は、仕入れて売るといった会社の外とのやりとりを記録する簿記で、3級から学んできた内容がその土台です。工業簿記は、材料や人の手間が製品に変わっていく会社の中の流れを記録して、1つあたりの原価を自分で計算する簿記で、2級で初めて登場します。

工業簿記の言葉に戸惑ったときは、コンビニのジュースとクレープ屋さんのクレープの違いを思い出してみてください。一方は仕入れ値が決まっていて、もう一方は原価を自分で計算しなければなりません。そこがわかっていれば、仕掛品や製造間接費といった言葉も、クレープが焼き上がるまでの流れの一部として読めるようになるはずです。

参考